第十三話「修学旅行三日目突入! 目指せ総本山!!」(1)

 修学旅行二日目の深夜。
 五班の部屋には夕映とハルナだけがいた。
 布団に入ってボーっとしている。
 おもむろに夕映が口を開いた。
「のどか達はいった何をしているんですかね?」
「さぁねぇ。最近のどかが何かやってることは分かるんだけどねぇ」
 ハルナは少し困ったように答えた。
「本人に聞き出すのは簡単だけど、友達を尋問するのは気が引けるしねぇ」
 また沈黙。
「明日菜さん達がなにか絡んでることは間違いないです。昨日の夜、騒ぎがあったようですし」
「理由も話さず、三人で行っちゃたしね。う~ん困ったもんだ」
 すると、部屋に入ってくる気配がした。
 慌てて二人は寝たふりをする。
 入ってきたのは明日菜達だった。
「寝つき良いわね。他の部屋はまだ騒いでるのに」
「明日に備えて早めに寝てるんだと思います」
「あや~、計画的やね」
「まぁ、こっちとしては彼女達には寝ててもらったほうが、ありがたいんですけどね」
 静かに自分達の鞄の前に行くと、仮契約カードを取る。
「それじゃ、私と本屋ちゃんは外を見回るね」
「では、私とお嬢様は旅館内のほうを見てきます」
 のどかは心配そうに言った。
「気をつけてください。昨日も侵入されてたし」
「今日は警戒を倍にしていますし、私がついていますから大丈夫です」
「うん。せっちゃんが居たら安心や」
 木乃香がにっこりと笑った。
 明日菜がまとめる。
「それじゃ、頑張りましょ」
 互いに頷きあうと、部屋を出て行った。
 彼女達が出て行くと、夕映とハルナは起き上がった。
「やっぱり、何か隠してるね」
「です」
 暫く考えてハルナは言った。
「明日、やっぱり聞いてみよう。なにか心配だ」
 その提案に夕映は無言で頷いた。

★

 修学旅行三日目の朝。
 隼人は昨日できなかったミーティングをするために、早朝六時に集合をかけた。
 集まる場所はロビーから少し離れた場所。
「よぉ、おはよう」
 隼人は集まった、明日菜達に挨拶した。
「おはよ」
「先生、おはようございます」
「隼人、おはよう」
「おはようございます」
 眠たそうにしながらも皆、返事した。
「エヴァと茶々丸が来てないな」
「エヴァちゃんはまだ寝てて、茶々丸さんは充電中よ」
 明日菜が言った。
「ああ、なるほど。吸血鬼は朝に弱いからな」
 どこっらせと言いながら、隼人は椅子に座った。
「先生、身体の具合はどうですか?」
 のどかが心配そうに聞いてくる。
 隼人は首を振って答えた。
「あまりよくない。体力のほうはある程度回復したが、気力が回復してない」
「大丈夫なの?」
 明日菜も心配そうな顔をする。
「魔力は問題ない。魔法も使える。せんと君レベルの敵が出たらお手上げだけど、それ以下なら何とかなると思う」
 重苦しい雰囲気になる。
 隼人は努めて明るく言った。
「なに、心配するな。こういう状況はなんども経験している。それに今日、関西呪術協会の本山に行く。そこに行けば完璧に治療できる」
「では今日、本山に行って親書を届けるんですね」
 刹那が今日の行動を聞いた。
「ああ、そうだ。スマンが一緒についてきてもらうぞ。今の状況で一人になるのは避けたいからな」
「ま、しょうがないわね」
「ウチらは実家に帰ることになるなぁ」
「そうですね」
 それぞれが了承する。
 しかし、のどかが心配そうに言った。
「あの、でも、夕映達はどうしたらいいですか? あの二人も流石に何か起こってると感づいているみたいですし」
 隼人は笑って解決案をだした。
「それについては大丈夫だ。コレがある」
 懐から取り出したのは、二枚の紙。
 人形型に折られている。
「ちょっと失礼」
 明日菜とのどかの髪の毛を数本引き抜く。
 そして、その人型に髪の毛を入れると刹那に渡した。
「ん、刹那頼む」
「はい」
 刹那は渡された折り紙を床に置くと、右手の人差し指と中指を立てる。
「折神大変化。明日菜折神、のどか折神!」
 鋭く叫ぶと、紙が光って変形し、明日菜とのどかが現われた。
「わ! 私が出た」
 明日菜は声を出して驚いた。
 のどかは驚きすぎて目を白黒させている。
「とまぁ、こんな風に身代わりを立てる」
 事もなげに隼人は言った。
 明日菜は目の前にいる自分を見つめる。
「うわぁ。ソックリだ。良く出来てるわね」
「気道系統の技でな。声から仕草まで完璧にトレースできる」
「へぇ。相変わらず魔法って便利ね」
 明日菜は呆れるやら感心するやら感想を言った。
 隼人が身代わりを元の紙に戻す。
「札が二枚しかないから、刹那と木乃香は実家に呼び出されたって理由にする。あとの二人は見つからないようにこっそり外に出ろ。いいな」
「了解」
「はい。わかりました」
 全員が快諾した。
 そして一度解散して、朝ごはん食べて準備ができたら再集合ということになった。
 このとき、物陰に隠れて様子を窺っていた影が二つ。
 夕映とハルナだった。
「今の何?」
 ハルナがボー然として言った。
「魔法がどうとか言ってたです」
 夕映も今起きたことが信じられなかった。
 札が人に変わるなど見たことなかったからだ。
「朝から覗き見とは良い趣味してるね。お二人さん♪」
 ボーっとしている二人の背後から声がした。
 慌てて振り向くと、カメラを片手にもった和美がいた。
「朝倉さん」
「ビックリしたなぁ。もう」
 ホッとする二人。
 和美はカラカラと笑いながら謝る。
「いやぁ、ゴメンゴメン。それよりお二人さん。明日菜達が気になるなら良い話があるよ」
 悪巧みをするような顔で言った。

★

 隼人の部屋。
 朝ごはんを食べてエネルギー充填完了。歯も磨いて身だしなみもOK。
 隼人は補助装備の札を確認する。
「結界符が三枚。治療符が一枚。閃光符が三枚か」
 完璧に不足している。特に治療符が足りない。
 嘆いても仕方がないので頭を切り替えて、刀を鞘から抜いて確認する。
 美しい鋒諸刃作(きっさきもろはづくり)が光り輝く。
「よし」
 鞘に戻した。
「アニキ、親書は持ったか?」
 隣で準備していたカモが聞いてくる。
 言われて懐を確認。
「大丈夫だ。確かにある」
「オーケーだ。こっちも準備できたぜ」
 オコジョ専用のリュックを背負って敬礼した。
 ふと、思い出して隼人は言った。
「そういやお前、風呂場で死んでたそうだな」
 今朝、風呂場で倒れていたところを従業員の人に発見されて、ここに運び込まれたのだ。
「いやぁ。『漢』には時には譲れない戦いがあるもんでさぁ」
 そう言いながら、カモは遠い目をして空を眺める。
「は?」
 隼人はサッパリ訳がわからず怪訝そうな顔をした。

(2)ページに続く

第十三話「修学旅行三日目突入! 目指せ総本山!!」(2)

 隼人とカモがロビーに来るとまき絵が近寄ってきた。
「せんせー。今日こそ一緒に回ろうよー」
 太陽のようなまぶしい笑みで誘う。
 隼人は申し訳なさそうな顔をして言った。
「すまんな。今日は学園長の頼みで、京都のお偉いさんと会ってこなきゃならないんだ」
「え~。残念~。何とかならないの?」
 まき絵が食い下がる。
「まき絵さん! 先生を困らせてはいけません」
 あやかが割って入ってきた。
「ええ~。でもぉ」
「でももへったくれもありません!」
 渋るまき絵を一蹴した。
「ゴメンな。まき絵」
 隼人は謝ると、外に出ようとする。
「ちょっと待て、隼人」
 エヴァに声をかけられた。
「ん? どうした」
 隼人は立ち止まる。
「呪術協会本山に行くようだが、お前本当に大丈夫か?」
 全てを見透かしている様な目で見つめてくる。
「魔法が使えるから戦闘はなんとかなる。コレぐらいの無茶は問題ない」
 隼人も目を見て、嘘偽ることなく言った。
 エヴァはため息をつくと隼人の胸に拳を当てる。
「ま、お前が大丈夫と言うなら良い。だが危険になったらすぐに連絡しろ」
 意外な言葉が出て驚く。
「あれ? 心配してくれるのか。意外と優しいな」
「ふん。一応、お前は私の呪いを解いてくれた恩人だからな。野垂れ死にされたら寝覚めが悪い」
 微妙な優しさだが、隼人は嬉しくなった。
「そうか。ありがとう。やばくなったら連絡を入れるよ。じゃ、行ってくる」
 隼人はそういうと急いで集合場所に向かった。
「愚か者が。無理しおって」
 その後ろ姿を見送りながらエヴァは呟いた。

★

 集合場所に向かうと、もう他のメンバーは来ていた。
「よう。すまん遅れた」
「嬢ちゃんたち。待たせたな」
 隼人とカモは手を上げながら駆け寄る。
「もう、何してたの。急いで来いって言ったのはアンタでしょ」
 明日菜が怒った。
「いや、生徒達に引き止められてて」
「まき絵ちゃん。隼人と回りたがってたしなぁ」
 木乃香がクスクスと笑った。
「さて、それじゃ気を引き締めて行くぞ」
 隼人たちは本山へ向かって歩き始めた。
 その後ろをじっと見つめる三つの人影。
「動き始めたみたいだね」
「それじゃ、尾行開始だ」
「はいです」
 和美とハルナと夕映は隼人達の後を追っていった。
 さらに上空に四人と一匹が居た。
白髪の少年、フェイトが言う。
「どうやら、彼らは本山に行くようだね」
黒髪の少年、小太郎が拳を鳴らす。
「どうでもええわ。俺がぶちのめすだけや」
小柄な少女、月詠が小太刀を抜いて刃を舐める。
「嗚呼、もうすぐ先輩と殺し合いが出来る。嗚呼、楽しみだぁ」
今回の事件の首謀者、天ヶ崎はその三人の様子を見て静かに笑った。
「ほな、行こか」
 うぉんとフェイトの肩に乗った悪魔が一声鳴くと、行動を開始した。
 京都を舞台に三つの陣営の追いかけっこが始まった。

★

 電車に乗って、バスに乗って、目的の関西呪術協会総本山に向かう。
 バスを降りてから徒歩で十分。遂に目的の場所、総本山の大鳥居に着いた。
「ここが、総本山なの?」
 巨大な鳥居がそびえている。それを眺めながら明日菜が質問した。
「いや、正確に言えば、ここから更に千本鳥居を抜けて奥が関西呪術協会総本山だ」
 奥のほうに目を凝らすと、幾つもの鳥居が立ち並んでいる。
「伏見稲荷に似てますね」
 ガイドブック見ながら、のどかは感想をもらした。
「久しぶりに帰ってきたなぁ。お父様元気やろか」
 久しぶりに実家に帰ってきたのが嬉しいのかニコニコと木乃香は笑った。
「ま、アイツのことだから元気にしてんじゃね?」
 隼人は頭を掻きながら言った。
 そして話を打ち切るように急に真面目な顔になる。
「さて、全員警戒しろ。いくら木乃香の実家でも、こっからは敵地だ。いつ敵が襲撃してきてもおかしくない」
 明日菜とのどかは頷いて、それぞれの仮契約カードをアーティファクトに変える。
 木乃香は魔力発動体である指輪の具合を確かめる。
 カモは隼人の肩に乗る。 
 隼人と刹那は愛刀を腰に差しなおす。
「一気に走り抜けて、本山を目指す。行くぞ!」
 全員が鳥居に突入した。
 しかし、隼人たちは気がつかなかった。鳥居に仕掛けられた罠に。彼らが入った瞬間、その罠は発動した。
「捉えたで。これであいつ等は袋のネズミや」
 一部始終を見ていた、天ヶ崎達は笑みを浮かべて鳥居に入っていった。
 ところがその天ヶ崎達も気がつかなかった。自分たちが仕掛けた罠に招かれざる者達が入り込んだことに。
「なんかここに入って行ったね」
 和美はカメラで撮影する。
「こんな神社あったんだ」
 ハルナは興味深そうに言った。
「おかしいです。ガイドブックに載ってないです」
 夕映は手持ちの本を見ながら首をかしげた。
 不思議に思いながらも隼人たちを追いかけて、奥へと入っていった。

★

 ひたすら隼人達は走っていく。先頭は隼人。次に明日菜、木乃香、のどかと続き、しんがりを刹那が担当。
 同じような景色で、真直ぐな道が延々と続く。鳥居が規則正しく並べられていて、あちこちに札が貼られてある。
 道の両脇は深い森だ。静かな空間に隼人達の足音が響く。
 魔力によって強化されているためスピードはかなり速い。スクーター並みの速さは出ている。
 そんな状態で走っていると、突然、前方に人が現われた。
「げっ」
「きゃああああ」
 慌てて失速するが、勢い余ってぶつかった。
「ぬわわわわわ」
「うひゃい」
「ひゃ」
「くっ」
 後続組みも、けつまずいてこけた。
「あたたた。何だ? 誰だいったい!?」
 すぐに体勢を立て直して、状況を確認する。
 手に柔らかい感触。
「ん?」
 よく見ると、和美の胸を揉んでいた。
 揉まれている本人は顔を真っ赤にして固まっていた。
「でえええええええええええええええええええええ?」
 ありえない状況に、ありえない人物。隼人は突然のことに混乱して思わず、後ずさる。
 そう。そこにいたのは、出席番号三番の朝倉和美と出席番号四番の綾瀬夕映、そして出席番号十四番の早乙女ハルナだった。
 明日菜たちも驚いて固まっている。
「なんでここにいるんだ!?」
 隼人は疑問を叫ぶ。
「それはこっちのセリフだよ。なんで後ろから来るのさ!」
 和美は揉まれた怒りやら、ぶつかられた怒りやらで、叫んだ。
「はぁ? なに言ってる? わけ分らん」
「分らないのはこっちだよ!」
 やいのやいのと言い合いになる。
「ちょっと、落ち着くです」
 慌てて夕映が割って入った。
 そして、とりあえず互いに落ち着いて、事情を話すことにした。
「で、なんでお前達がここにいるんだ?」
 隼人は少し恐い顔をして聞いた。
 和美はばつが悪そうに苦笑いしながら謝る。
「いや~ごめん。やっぱり気になって。後をつけてきちゃった」
「気になったって。おまえなぁ」
 はぁっとため息をつく。
「それで、夕映達はどうしてここに?」
 のどかは首をかしげる。
「のどかが心配だったからです」
 きっぱりと夕映が言う。
「心配?」
「そうです。私たちに内緒で何かしているのがすごく気になったです」
「『侵入』だとか『敵』だとか『魔法』だとか、あまり聞きなれない単語を聞いちゃってね。友達としてほっとけなかったのよ」
 ハルナが補足した。
「そっか、ゴメンね。色々と忙しかったから、なかなか言えなくて……」
 友達がそこまで自分の事を心配してくれたのが申し訳なくなって、しょんぼりしてしまった。
「ねぇこれからどうするの? このままほっとくわけにもいかないでしょ」
 明日菜が困ったように言った。
「ここまで来たら、家まで来てもらおや。そのほうが色々と楽やと思うえ?」
「そうですね。お嬢様。とりあえずこのまま一緒に本山に行ったほうが良いでしょうね」
「どうする? アニキ」
 カモが隼人を見る。
「う~ん。そのほうが楽か。色々話すにもここじゃ無理だしな」
 話がまとまった。しかし、妙な違和感を覚えて、和美達に聞いた。
「なぁ。なんでお前ら前を走ってたんだ?」
「え? なんでだろ? 私たちのほうが後に入ったはずなんだけどなぁ」
 和美もわけが分らず首をひねる。
 隼人はあごに手を当てて、考え込んだ。
 刹那も疑問に思ったのか周りを確認する。
「あれ?」
 何かに気がついた。
「どうした?」
 隼人は思考を打ち切って顔を上げる。
 刹那はありえないといわんばかりの顔で言った。
「ここ、さっき通ったところですよ」
「え? ホントかよ」
 全員あたりを見回す。
 似たような景色が続いている道とはいえ、やはり特徴はある。
「ほんとだ。ここさっき走り抜けたところだ」
 明日菜が指をさした。
「ほら、みてみぃ。この鳥居の札。さっきも見たで」
 木乃香も指摘する。
「やっぱりここは、さっき通ったところだ」
 全員が同じ意見だった。
「どうなってんだ。まさか罠か?」
 カモが不安そうに言う。
 隼人は険しい表情であたりを睨んだ。
「こりゃ、無限方処の呪法だ」
「なにそれ?」
 ハルナが聞いた。
「空間を適当なところで区切って延々とループさせる空間系の術だ。閉じ込められたら最後、抜け出せなくなる」
 さらりと絶望的なことを言った。
「そんな、嘘でしょ」
 すると、驚愕する隼人たちをあざ笑うかのような笑い声があたりに響いた。
「だれだ!」
 隼人達は警戒する。
「永遠の地獄へ、いらっしゃ~い♪」
 現われたのは、天ヶ崎一派。
「ここで、あんたらの修学旅行は終わりやで」
 彼女は心底楽しそうな、邪悪な笑みを浮かべた

【第十四話】に続く

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